2023.4.5
市長が地方交付税増額の飴玉に釣られて、マイナンバーカード交付率を、現在の84.12%から100%に近づける目的で大なたを奮ったため、市民の大反発を招聘。5万人余りの反対署名が寄せられ、リコールの危機感が迫ったことで、急遽撤回を表明したものです。
撤回理由として、国からの地方創生臨時交付金の交付額決定に伴うものと、回答しておられるようです。ところが、この交付金はあくまで新型コロナウイルス感染症対応ですから、コロナが終息すればなくなるのです。それに対し、保育料、給食費、学用品費無償化は半永久的な備前市の福祉施策ですので、コロナとは直接関係ありません。つまり、自己正当化を装った苦し紛れの答弁と言わざるを得ません。
実は、この度の市長による苦渋の方針転換には、大きな矛盾をはらんでいたのです。
去る3月23日の本会議で可決された条例は3本で、保育料無償化に係る改正と給食費と学用品費無償化は各々条例制定でした。因みに全年齢層に対する保育料無償化は平成29年度から、給食費と学用品費の無償化は令和4年度から開始していました。
これら条例の共通項は下記3点に集約されます。
- 市長は、保護者等から保育料、給食費、学用品費を徴収する。
- 保護者等は、保育料、給食費、学用品費を納付しなければならない。
- 市長は特に必要があると認めるときは、規則で定めるところにより、保育料、給食費、学用品費を減額、又は免除できる。
つまり保育料、給食費、学用品費は受益者負担の原則から、保護者納付を義務付けると共に、市長が特に必要があると認めるときは免除の道を開いていたのです。
この「必要があると認めるとき」として、別途規則で、児童生徒対象に係る世帯全員のマイナンバーカード取得を条件にしようとしていました。現に市長は昨年12月、保護者にこのことを通知し、マイナポイントという政府の人参ぶら下げ施策に便乗しつつ、市民に対し、カード取得を無理強いしようとしていたのです。即ち、条例根拠なきまま、議会を無視した形で勇み足をしていたのです。
これが市民の大反発を招き、反対請願も不採択とはなりましたが、先の2月定例議会に提出されていたのでした。
ところが、これらの条例を可決したからには、理論上は、マイナンバーカード取得条件を反故にすれば、全対象者に受益者負担が求められることとなり、無償化は吹っ飛んでしまいます。そうなりますと、これまで無償化待遇を受けていた保護者は、逆の意味で反発し、マイナンバーカード取得の有無どころではなくなり、市長の立ち場が危うくなるのは必定です。
既に市長は条例可決を受け、議会とは関係なく、条例の「特に市長が認めるとき」を盾に、規則を去る3月27日に改正したことが、谷本誠一呉市議会議員の調査で明らかになりました。これは、世帯全員のマイナンバーカード取得を条件に無償化する内容です。施行日は、条例施行日と同じく令和5年4月1日になっています。
この度の、市長によるマイナンバーカード取得条件の撤回表明を受け、担当部署は市長命令により、議会と関係ないところで規則を再改正し、全員無償化になるようつじつまを合わせようとしていたことも判明しました。この矛盾点に気付かないこと自体が、自らの地位保身に走る市長のイエスマンたる公務員の悲しい性なのです。
と申しますのも、これには到底無理があるのです。これまで通り対象者を全員無償化にしようとしますと、「特に市長が認めるとき」ではなくなります。しかも保育所設置条例では、附則に、現行の「当分の間」を「令和5年3月31日まで徴収しない」とまで書き変えてしまっているからです。
このままでは、条例本則の受益者負担原則とは相容れないばかりか、令和5年度からは徴収することになってしまうのです。つまり、いかなる理由を付けようとも、強引に全対象者を無償にすれば、条例違反となるのは自明の理です。
「市長が特に必要があると認めるとき」とは、例外規定、即ち「但し書き」と呼ばれるもので、本則は受益者負担であるからに他なりません。
従いまして今後の焦点は、もしこれまで通り無償化を継続するなら、条例の再改正が必要ではないかと考えます。そうなったらなったで、この支離滅裂騒ぎが表面化するのは火を見るより明らかです。
この度の条例改正と制定が、結果的に市長自らの首を絞める格好となり、墓穴を掘ったと言えましょう。今後の動向に目が離せなくなりました。