2023.1.23
今回は記者クラブ記者による傍聴は僅か3名。一般傍聴者は30数名となりました。ところが、その後開かれた記者会見には、記者は申し合わせたように完全にスルー。報道しない自由を誇示した格好です。
さて、前回3分での終了に比べ、今回は正味13分。その中でも特に原告の谷本誠一呉市議会議員に対して、裁判長がしつこく質問をしたことが目を引きました。というのも、「原告は誰に対して訴えているのか、AIRDOの従業員を個々に訴えているのか?」との質問です。(株)AIRDOと釧路警察署を被告として、訴状に明確に記載されているにも関わらず、愚問と言えましょう。
それに対して原告は、「個人を訴えているのではなく、あくまでもAIRDOと釧路警察署という組織全体を訴えている」と答弁。裁判長は更に「個人ではなく、法人を訴えていることに間違いないか?」と更に確認しました。このやり取りだけでも数合。通常あり得ない質問だと感じました。
AIRDO代理人弁護士からは原告に対し、「この度提出された反論書が全てか?」との質問が出され、原告は、「私の反論書への再反論が被告から出された時点で、それに対する反論は今後出る可能性はある」と答弁したところです。
続いて、両被告による答弁書に対し、去る1月13日付けで谷本議員が反論書を提出したため、次回の口頭弁論では、被告が再反論書を提出する段取りとなりました。裁判長は被告代理人弁護士に対し、「再反論書はいつまでに完成するか?」と問うたのに対し、「年度末で多忙のため、3月末」と回答。これを受け「3月中に、今回のような大部屋を押さえていたが、4月となれば、空き状況を調べるため一旦休憩」を宣告されました。5分程度を経て再開。「本日は次回日程を決められないため、追って調整連絡をする」ことになり、閉廷となりました。
その後記者クラブ不在のまま記者会見。この日は、原告と一緒に降機させられた反ジャーナリストの高橋清隆氏が顔を見せました。
谷本議員は、この日の裁判の流れを報告。続いて反論書の内容を順次解説しました。ポイントは4つです。
第1は、「マスク不着用のままでの搭乗を受け入れていない」との被告答弁書です。搭乗係員が「責任を持って、ご案内致します」とは言っていないとの主張ですが、記録を見ると、やはり言っておりました。しかも、「乗れるのは確定しております」と言ったことを、答弁書に記載していなかったのです。これは、「健康上の理由によらずマスク未着用での契約は成立してはいなかった」としているため、矛盾が生じるからだと容易に推察されます。
また、命令書発行は、機長単独ではなく、基地長代行だったとAIRDO草野社長(当時)が回答したことで、搭乗係官が判断を仰いだ旅客事務所の上席と基地長代行との関係、並びにそれらの氏名を明かにせよと原告が求めたのでした。
第2は、命令書は降機命令ではなく、反復継続中止命令だったことについて、「飛行機に乗り込んできた釧路警察署の警察官は発令を主導していない」との主張に対し、反論を試みました。
警察官は、原告らを降ろすための法的根拠を原告から迫られたことで、自ら操縦席の機長を訪れています。しかも原告が命令書発出直後「マスクを着けますよ」と言ったことに対し、「もうマスクは関係ない。これが出たからには降りるんだ!」と恫喝したことから、AIRDOの主張は崩壊しているとしました。
併せて、釧路警察署の答弁書には、そのいきさつには一切触れておらず、それをAIRDOの答弁書に記載するとは本末転倒と指摘したのです。
更には、航空法第73条の4第5項に基づく反復継続禁止命令をさておき、運送約款第14条第1項第3号を持ち出したことにについて、「法的根拠がないにも関わらず、運送約款を根拠付けることは違法である」と断罪しました。
第3の論点は、原告らが「罵声、威嚇、撮影」に及んだと、被告が答弁していることです。これは完全に破綻しています。
何故なら、原告は政治家なので、そのような行為は信頼を失墜し致命傷となるため、あり得ません。ましてや自身の座席から一歩たりとも動いていないのです。最後尾だったこともあって、他の乗客とは10m程離れていたのです。
また撮影も、命令書が発布されたので、後の裁判に役立てるために、自己正当防衛のために採った行為です。「撮影したから搭乗を拒否した」とは、因果逆転と言えましょう。
更に、マスク未着用に端を発したCAとのやりとりは、航空法上の「安全阻害行為」と位置付けるのは無理があります。その理由を8点提示したところです。
第4として、マスク着用義務の不存在に係る法的・科学的根拠について考察しました。
被告は、訴状にある新型インフルエンザ等対策特別措置法は「本件とは無関係」と一蹴しました。
原告は、これを法的根拠を避ける詭弁であるとし、「同特措法や感染症法において、国民の感染症対策協力は努力義務だが、人権擁護は義務になっており、感染対策より人権が上位にある」と明言。加えて人権啓発推進法第1条を引用し、信条の違いによっての差別は許されないと訴えました。
一方高橋清隆氏は、AIRDOの答弁書に対し、この度反論書を提出。一貫して「搭乗拒否」という言葉にすり替えていますが、これは「降機命令」と内容は同一であって、「拒否されれば自主的に降機するしか選択の余地がないので、この言語使用は詭弁である」と、被告の主張を切って落としました。
総じて、AIRDO側の主張は、定期航空協会が定めているガイドラインを忠実に実践しているのだから問題ないとの立ち場です。これに対して原告は、憲法98条を引き合いに、憲法が最高法規であり、法律、条例、規則の順位になっていて、「上位法規に依拠しないルールやガイドラインは全て無効である」と、明確に論点整理したのでした。